『草原の記』の最後のくだりは涙なくしては読めない。先ほど、その後のツエベクマさんを知りたくなってネットで調べると以下の記事が見つかった。四国新聞社の2004年3月15日に配信のニュース記事だ。
「B・ツェベクマさん死去/モンゴル日交流協会顧問」と見出しがあり、「バルダンギーン・ツェベクマさん(モンゴル日本文化交流促進『アリアンス』協会顧問)15日、病気のためウランバートル市内の自宅で死去、79歳。1924年ロシアのバイカル湖近くで生まれ、現在の中国・内モンゴル自治区ハイラルで育ち日本語を学ぶ。59年に中国を脱出し、娘とモンゴルに亡命。作家の故司馬遼太郎さんと親交が深く、同氏の著作『草原の記』の主人公モデルとして知られる。自らの半生を描いた『星の草原に帰らん』を日本で出版、99年に勲五等宝冠章を受章した」とある。
「B・ツェベクマさん死去/モンゴル日交流協会顧問」と見出しがあり、「バルダンギーン・ツェベクマさん(モンゴル日本文化交流促進『アリアンス』協会顧問)15日、病気のためウランバートル市内の自宅で死去、79歳。1924年ロシアのバイカル湖近くで生まれ、現在の中国・内モンゴル自治区ハイラルで育ち日本語を学ぶ。59年に中国を脱出し、娘とモンゴルに亡命。作家の故司馬遼太郎さんと親交が深く、同氏の著作『草原の記』の主人公モデルとして知られる。自らの半生を描いた『星の草原に帰らん』を日本で出版、99年に勲五等宝冠章を受章した」とある。
以下は『草原の記』から気になる箇所を抜粋。このなかの終わり辺りに取り上げた箇所は特に涙を誘われる。テレビの放送でもこの辺りを取り上げていた。「私のは、希望だけの人生です」と。
ツエベクマさんが亡くなられたと知って自らが書かれた『星の草原に帰らん』を図書館で探すとあった。早速予約。なんとこの本の訳をツエベクマさんの話を聞いて嗚咽した鯉淵信一教授がされている。1つの番組から始まった私とモンゴルとの縁が司馬遼太郎の本を通してどんどん広がっていく。今夜は「南蛮のみち」。『街道をゆく』シリーズの21と22に収められている。この2冊も図書館で借りて……。本を読むのが忙しくなりそうだ。遊びにも行きたい……。
ともあれ今日も元気で楽しく過ごしましょう!
★胡というのは、戎(じゅう)や夷(い)や蛮(ばん)、狄(てき)と同様、野蛮人をさす。(10p)
★主役は、私が草原で出会ったツエベクマさんという女性なのである。しかしいまこのように列島の一隅で彼女のことを想いだすとき、滑稽に思われるかもしれないが、このひとを載せているモンゴル高原について書かねば、私の中で彼女が鮮明になってこ来ないのである。(14p)
★ソ連は、いうまでもなく、モンゴルの隣邦である。ロシア帝国以来、古代に住んでいるのではないかと思えるほど、帝政のむかしから奴隷を必要とする帝国であった。とくに鉄道敷設や都市建設など巨大土木をおこすときは、首都など大量に政治犯をつくりあげ、奴隷に仕立てて作業場に送りこむ。スターリン時代もそうだった。第二次大戦の戦後、その忌むべき習癖が出た。いわゆる満州にいた日本の関東軍の兵士は、それによって実質上戦争奴隷としてシベリアに送られ、建設現場で労働させられたのである。その一部がモンゴル高原に拉致され、この街の建設現場で労働させられたのである。(62p)
★農耕文明は、まちを必要とした。……遊牧民は、古来、物を貯えない。不必要に多量な什器や衣類を持てば、移動が出来なくなってしまうのである。……とはいえ、歴史的モンゴル人は、金目のものとして宝石や金銀の装身具を持つことはあった。そういうものなら、移動の場合に荷重にならない。(65-66p)
★モンゴル人には、漢人がすべて高利貸しにみえる。かれらは悲鳴をあげ、ロシアの革命政権に頼らざるをえなかった。曲折のすえ、一九二四年、ソ連に次いで世界に二番目の社会主義国家をつくるはめになった。かれらが社会主義をえらんだのは、マルクスのいう歴史の発展の結果ではなく、ただ漢人から草原を守りたかっただけだった。(104-105p)
★ツエベクマさんは、その前夫を家で迎えた。二十六年ぶりの再会だった。会えばどう言おうかと考えたりもしたが、イミナの肩にすがって入ってきたその人を見たとき、それどころではなかった。すぐさま手を貸して部屋に入れ、寝台の用意をしなければならなかった。このときツエベクマさんは、夫は自分のもとで死ぬためにここまできた、と気づいた。……以後、ツエベクマさんはその女性を客としてあつかい、かつぎこまれて入ってきた老人を、イミナの父として丁寧に介抱した。……政府がみとめた招待期間は一ヶ月だったが、ツエベクマさんは再申請して四十五日まで延長してもらった。 ……ブルンサインはその後数ヶ月生きた。息をひきとったのはツエベクマさんの腕のなかだったという。(220-221p)
★「わるく生きるよりもよく死ね、という諺が、モンゴルにあります。夫の生涯をふりかえって、その諺どおりだったと思っています。ブルンサインはわるく生きましたが、よく死にました」と、ツエベクマさんがいった。わるく生きるとは、つらく生きるということだろう。よく死ぬというのは、二十六年間生きわかれしていた妻子に再会し、二人に看取られて死んだ、ということかと思われる。(222p)
★「ツエベクマさんの人生は、大きいですね」と、私がいうと、彼女は切り返すように答えた。「私のは、希望だけの人生です」急にはげしい嗚咽がおこった。男らしく乾いたその音が、同席している鯉淵信一教授の大きな体から出ていることに気づいたが、私はそのほうを見ないようにした。ツエベクマさんのいう希望が、自分自身の人生とこの草原の民族の希望と運命をかさねたものであることは、講淵教授はよくわかっている。(222-223p)
★ブルンサイン教授が、かれの生まれた草原でないにせよ、つらかった生の最後にここにもどってきたのは、帰巣であったのかもしれない。遥かにいえば、元(げん)の北帰に似ているようにおもえる。(223p)
★胡というのは、戎(じゅう)や夷(い)や蛮(ばん)、狄(てき)と同様、野蛮人をさす。(10p)
★主役は、私が草原で出会ったツエベクマさんという女性なのである。しかしいまこのように列島の一隅で彼女のことを想いだすとき、滑稽に思われるかもしれないが、このひとを載せているモンゴル高原について書かねば、私の中で彼女が鮮明になってこ来ないのである。(14p)
★ソ連は、いうまでもなく、モンゴルの隣邦である。ロシア帝国以来、古代に住んでいるのではないかと思えるほど、帝政のむかしから奴隷を必要とする帝国であった。とくに鉄道敷設や都市建設など巨大土木をおこすときは、首都など大量に政治犯をつくりあげ、奴隷に仕立てて作業場に送りこむ。スターリン時代もそうだった。第二次大戦の戦後、その忌むべき習癖が出た。いわゆる満州にいた日本の関東軍の兵士は、それによって実質上戦争奴隷としてシベリアに送られ、建設現場で労働させられたのである。その一部がモンゴル高原に拉致され、この街の建設現場で労働させられたのである。(62p)
★農耕文明は、まちを必要とした。……遊牧民は、古来、物を貯えない。不必要に多量な什器や衣類を持てば、移動が出来なくなってしまうのである。……とはいえ、歴史的モンゴル人は、金目のものとして宝石や金銀の装身具を持つことはあった。そういうものなら、移動の場合に荷重にならない。(65-66p)
★モンゴル人には、漢人がすべて高利貸しにみえる。かれらは悲鳴をあげ、ロシアの革命政権に頼らざるをえなかった。曲折のすえ、一九二四年、ソ連に次いで世界に二番目の社会主義国家をつくるはめになった。かれらが社会主義をえらんだのは、マルクスのいう歴史の発展の結果ではなく、ただ漢人から草原を守りたかっただけだった。(104-105p)
★ツエベクマさんは、その前夫を家で迎えた。二十六年ぶりの再会だった。会えばどう言おうかと考えたりもしたが、イミナの肩にすがって入ってきたその人を見たとき、それどころではなかった。すぐさま手を貸して部屋に入れ、寝台の用意をしなければならなかった。このときツエベクマさんは、夫は自分のもとで死ぬためにここまできた、と気づいた。……以後、ツエベクマさんはその女性を客としてあつかい、かつぎこまれて入ってきた老人を、イミナの父として丁寧に介抱した。……政府がみとめた招待期間は一ヶ月だったが、ツエベクマさんは再申請して四十五日まで延長してもらった。 ……ブルンサインはその後数ヶ月生きた。息をひきとったのはツエベクマさんの腕のなかだったという。(220-221p)
★「わるく生きるよりもよく死ね、という諺が、モンゴルにあります。夫の生涯をふりかえって、その諺どおりだったと思っています。ブルンサインはわるく生きましたが、よく死にました」と、ツエベクマさんがいった。わるく生きるとは、つらく生きるということだろう。よく死ぬというのは、二十六年間生きわかれしていた妻子に再会し、二人に看取られて死んだ、ということかと思われる。(222p)
★「ツエベクマさんの人生は、大きいですね」と、私がいうと、彼女は切り返すように答えた。「私のは、希望だけの人生です」急にはげしい嗚咽がおこった。男らしく乾いたその音が、同席している鯉淵信一教授の大きな体から出ていることに気づいたが、私はそのほうを見ないようにした。ツエベクマさんのいう希望が、自分自身の人生とこの草原の民族の希望と運命をかさねたものであることは、講淵教授はよくわかっている。(222-223p)
★ブルンサイン教授が、かれの生まれた草原でないにせよ、つらかった生の最後にここにもどってきたのは、帰巣であったのかもしれない。遥かにいえば、元(げん)の北帰に似ているようにおもえる。(223p)
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