司馬遼太郎の『項羽と劉邦』(中)(新潮社、昭和63年19刷)を読むと「『殺されたくなければ〇(そむく)な』(注:厥の厂がない文字をここでは〇と表記する)というのが、項羽の政治学に書かれているたった一行の鉄則だった。……このため、項羽の戦いは戦闘より虐殺のほうで多忙だった(185-186p)」の件がある。この〇をパソコンで入力しようとするが手持ちのどの辞書にも掲載がない。かなり調べるうち、やっと〇を見つける。だが、パソコン上では表記できない。
辞書は大修館書店の「中日大辞典」、電子辞書に収められてある「デジタル大辞泉」、「明解国語辞典」、「新漢語林」、そして学研の「漢和大辞典」 と手元にある辞書を探す。司馬遼太郎はこの〇に「そむく」とルビをつけている。ほかにも我が家に辞書があると思って探すと父が仕事で愛用していた昭和12年発行の分厚い「新選漢和大辭典」がある。さらには新華書店発行の「新華字典」も探す。いずれも〇の掲載がない。最後に探したのは中国で購入した中華書局発行の分厚い「中華大字典」上下2冊を調べると〇が載っていた。もう、半端でなく嬉しかった!久々にわからないことがわかる喜びを味わう。
〇に当たる文字があった ↓
中華大字典 |
〇に当てはまる文字は部首の「欠」、「屮」、「艸」 、「艹」で各辞書それぞれ調べる。「欠」の部首に〇の掲載があった。〇が掲載された「中華大字典」は中国に出かけて購入したもので1985年発刊となっている。が、紙質が悪いためかボロく思える。この辞書、〇の掲載がなければ資源ごみ行きとなるところだった。しかし、〇が見つかったので大事に保管しよう、と気も変わる。
ちなみに電子辞書の「新漢語林」で〇を探すと「解字」としての説明箇所に「形成。厂+〇音符。音符の〇(けつ)は人が大きな口をあけてせきこむの意味」として〇の記載がある。音符は音楽用語だけでなく、「音符とは漢字や仮名の文字につけて発音を示すための補助符号」として「々」などがあり、さらに「漢字の構成で、音を表わす部分」として銅の「同」などがあるようだ。厥の〇は音符の意味がやっと理解できた。
司馬遼太郎が作品を書いていたころはパソコンもなく、手書きだったに違いない。それもむつかしい漢字を大量に書いて本にしている。文字を書くだけでも大変な作業だったと思われる。本を読むと知らない漢字が頻繁に出てくる。去年の10月くらいから読めない漢字を拾い出してノートに書き留め、その文字を辞書で確認する。今回、わかった〇は忘れられない一文字となりそうだ。なお、今回知った〇は「けつ」と読み、司馬作品には「そむく」とルビがある。コロナの影響で家にいる時間が長くなり、暇つぶしに調べる癖がつきそうだ!それにしても、『項羽と劉邦』に〇の字が印刷されている。どうやって印刷したのだろう。
ともあれ今日も元気で楽しく過ごしましょう!
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