哲学者ながらも文の書き方は気をてらったパロディ風。この本もやはりパロディ調。しかし、それは全体にはいきわたっておらず、エッセイとして書いている。
「気をてらう」ところは本の裏表紙に書いている自己紹介にもある。「名門、玉野市立宇野小学校をわずか6年で卒業し、トントン拍子に中学、高校、大学を経て恵まれない結婚生活に至る。そのかたわらお茶の水女子大学の哲学教師として、35年間にわたって、哲学をはじめ、言葉遣い、生活態度、服装にいたるまで、学生に指導された。現在は定年退職し、お茶の水女子大学名誉教授として、不名誉な言動をつつしまされる不自由な毎日を強いられている。・・・多数のユーモアエッセイを世に問い続けたが、世に問うたびに在庫が大きく増えるという答えが返ってきただけだった。一縷の希望を託して数冊哲学書を世に問うたが、同様の結果に終わった。読者の見る目が成熟していないのか、それとも著者の内容が成熟していないのか、鋭意調査中である。」いうふうに。
これを筆者は「ユーモア」と捉える。この本のサブタイトルに「考え違いとユーモア」とあるように、筆者はイギリス在住でユーモアを学んだ。「イギリスに行ったとき、驚いたのは,イギリス人がユーモアのセンスを非常に重視することでした。あるタブロイド紙には個人広告のページがあって、そこには自分の特徴と、・・・例外なく書かれているのは、・・・一つは『タバコを吸わない』、もう一つは『ユーモアのセンスがある』ということでした。・・・」(164p)。
「ユーモア」こそが不幸を阻止する大切な点であるという(164p)。とくにモノゴトの一面をみて重大視するとき、そのことで心が打ちひしがれるのを防ぐ能力がユーモアだと。すなわち重要視するのを矯正する能力。「そういう重大視しているこだわりから突然解放されたときに笑いが起こります。」(169p)。
筆者は「笑うということは、不幸な事態から重要性をはぎ取ることです。」(172p)。「重要に思っていることでも大したことではないという視点を見つけられる能力がユーモアのセンスだろうと思います。」(173p)。
この「ユーモア」精神の訓練にとって不可欠なことは「自分の一番気にしている部分を人に話す」ことだ、と。
これを読んですぐに「ふーちゃん」を思い出した。その人は自身が太っていることを気にせず、むしろ笑いで吹き飛ばし、周りのものを幸せにしている。これだ!と。
ふーちゃんだけでなく、何か失敗したとき、自分の馬鹿さ加減を面白おかしく人に話すとホッとする。これもユーモア精神になるだろう。
筆者はそれを「欠点を認めると楽になる」と(183p)。それをユーモアにするには一番深刻になりやすい自分の欠点や不幸を徐々に訓練して可笑しいと思える角度を探す練習をするといいらしい(185p)。
「人間には色々な逆境や不幸がふりかかってきますが、それに翻弄されて打ちひしがれることに抵抗することができます。そのための武器が笑いでありユーモアです。その武器はたぶん、どこまでも磨くことができるんだと思います。不幸を重要視しない自由、重要視するのとは別の角度からものを見る自由を、・・・」(187p)と。筆者は一面的になる、重大視すぎる、これが不幸を必要以上に大きくするという。
そのためにも、色々な角度から見る、違う側面を見る、という人間に与えられた特権の能力を意識的に発揮すると違う世界が見えてくるという(188p)。
ここまでブログに書いて筆者のいおうとする前半部分が抜けている。
筆者は「不幸を軽減する方法を一口で言うと、当たり前のことを疑うという方法だ。」(7p)という。それには「緻密な思考」と「ユーモア」である、と(8p)。
筆者は「不幸を軽減する方法を一口で言うと、当たり前のことを疑うという方法だ。」(7p)という。それには「緻密な思考」と「ユーモア」である、と(8p)。
「緻密な思考」は疑わしい先入観が多い常識を疑え、と。「ユーモア」は先に述べたように不幸を乗り越える上で何よりも有効な方法だとする(9p)。
この「疑う」に対して「僕も授業で、学生に疑うように口うるさく指導した結果、学生からだんだん信用されなくなって、僕の人間性まで信用されなくなりました。それほど哲学は、どんなことでも疑うんです。」という(15p)。
筆者はこの本の中で「労働の対極にある、何の役にも立たないものの方が価値があると考えていたんです。」。これはアリストテレスのことばとか。その労働でない暇な時間を「スコレー」と呼び、働いていない暇な時間にやるべき典型的なことは学問だと考えられていた、という(31p)。
これを読んで修了した大学のポリシーである「学問とは最高の遊びである」の意味がわかってきた。アリストテレスまでさかのぼるとは・・・。
ともあれ筆者のいうようにモノ・ゴトを多面的に捉え、人間に与えられている自由を発揮して希望をもてる考え方を選ぶ。考え方如何で幸にも不幸にもなる。
いつもユーモア精神を忘れずに・・・。
0 件のコメント:
コメントを投稿