2019年2月8日金曜日

『坂の上の雲』(四)

 今朝の地元紙で堀文子の訃報を知る。御年100歳であってももっと生きていてほしかった。堀文子の絵は以前、兵庫県の美術館で初めて見た。そして、年末の12月に三次の美術館で見る。堀文子は絵の良さもあるが生き方にも魅かれる。今朝はダグニーさんのblogのアップがない。

 昨日、銀行で引き落としの記帳後、眼科へ行く。眼圧は異常なし。その後、大型電気店に自転車で向かい、ポイントの記帳をしてもらう。3か所を自転車で移動すると結構な運動量になる。昨日は他にも今月予定していた日帰りバス旅の催行中止の電話がある。これまで何の書類も届かず、諦めていたので何の感慨もない。3月の海外はすでに催行中止決定済み。4月の国内と5月の海外は書類が届いているが、これもさてどうなることやら。ぼやいていても何も始まらない。そういう今、旅のカタログが届く。後でゆっくり見ることにしよう。

 ともあれ今日も元気で楽しく過ごしましょう!
 
 以下は先日読んだ『坂の上の雲』第四巻(文藝春秋 2004年新装版第1刷)からの抜粋。日露戦争の勝利が先の大戦へとつながる。第4巻を読んで神風特攻隊は日露戦争の過剰な反応からそうなった、としか思えない。

★乃木希典は、開戦以来、自分の参謀長の意向をはじめて無視した。乃木にすれば、東京の大本営からも、大山の総司令部からも、また海軍からも耳が鳴るほどにやかましく示唆されつづけたこの二〇三高地というかぎ穴に、はじめて鍵を突っ込むことにした。……ステッセルは、あらゆる砲塁のなかで最強のものをこの高地に築あげたのである。109p

★庶民が「国家」というものに参加したのは、明治政府の成立からである。近代国家となったということが庶民の生活にじかに突きささってきたのは、徴兵ということであった。国民皆兵の憲法のもとに、明治以前には戦争に駆り出されることのなかった庶民が、兵士になった。近代国家というものは「近代」という言葉の幻覚によって国民にかならずしも福祉をのみ与えるものでなく、戦場での死をも強制するものであった。……明治維新によって誕生した近代国家はそうではない。憲法によって国民を兵士にし、そこからのがれる自由を認めず、戦場にあっては、いかに無能な指揮官が無謀な命令をくだそうとも、服従以外になかった。もし命令に反すれば抗命罪という死刑をふくむ陸軍刑法が用意されていた。国家というものが、庶民に対してこれほど重くのしかかった歴史は、それ以前にはない。が、明治の庶民にとってこのことがさほどの苦痛でなく、ときにはその重圧が甘美でさえあったのは、明治国家は日本の庶民が国家というものにはじめて参加しえた集団的感動の時代であり、いわば国家そのものが強烈な宗教的対象であったからであった。二〇三高地における日本軍兵士の驚嘆すべき勇敢さの基調には、そういう歴史的精神と事情が波打っている。122-123p

★ロシア帝国が遼東半島に強引に居すわってここに港市をきずいたのは、明治三十一年である。それまでは漁村の点在するさびしい海浜であったにすぎない。ロシアはここに大都市を建設し、極東における支配中軸にしようとした。かつて清国人が青泥窪(チンニーワー)とよんでいたこの土地を、ロシア人はあらためてダルニーと命名した。東郷がここに一夜をすごしたこの時期にはまだ日本人からもダルニーとよばれていて、大連という別称は存在したものの、まだ正称ではなかった。大連が正称になるには明治三十八年からである。228p

★この日露戦争の勝利後、日本陸軍はたしかに変質し、別の集団になったとしか思えないが、その戦後の最初の愚行は、官修の「日露戦史」においてすべて都合のわるいことは隠蔽したことである。参謀本部編「日露戦史」十巻は量的に膨大な書物である。戦後すぐ委員会が設けられ、大正三年をもって終了した、ものだが、それだけのエネルギーをつかったものとしては各巻につけられている多数の地図をのぞいては、ほとんど書物としての価値をもたない。作戦についての価値判断がほとんどなされておらず、それを回避しぬいて平板な平面叙述のみにおわってしまっている。その理由は、戦後の論功行賞にあった。伊地知幸介にさえ男爵をあたえるという戦勝国特有の総花式のそれをやったため、官修戦史において作戦の当否や価値論評をおこなうわけにゆかなくなったのである。……これにこれによって国民は何事もしらされず、むしろ日本が神秘的な強国であるということを教えられるのみであり、小学校教育においてそのように信じさせられた世代が、やがては昭和陸軍の幹部になり、日露戦争当時の軍人とはまるでちがった質の人間群というか、ともともかく狂暴としか言いようのない自己肥大の集団をつくって昭和日本の運命をとほうもない方向へひきずってゆくのである。508-509p(あとがき)

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