遠藤周作『女の一生 二部サチ子の場合』(新潮文庫、昭和61年)を読んだ。この本はポーランドの旅で移動するバス車内で聞いた添乗員の言葉による。何の話でこの本が出たのか今となっては覚えていない。バスの長い移動の車内で説明する添乗員。キュリー夫人、シンドラーのリスト、アンネの日記、日露戦争でポーランドの孤児を日本赤十字社が助けたこと、そしてこの本など調べてきた資料だろうか、車内で話を続ける。
思わず本のタイトルだけでも、と思ってメモする。この2,3日、図書館で借りてこれを読む。久しぶりに文庫本、それも小説を読む。405頁もある分厚い文庫本。読みごたえはあった。
本の裏表紙には「第二次世界大戦下の長崎で、互いに好意を抱きあうサチ子と修平。しかし、戦争の荒波は二人の愛を無残に引き裂いていく。修平は聖書の教えと武器を取って人を殺さねばならないことへの矛盾に苦しみつつ、特攻隊員として出撃する。そしてサチ子の住む長崎は原爆にみまわれる。激動の時代に、信仰をまもり、本当の恋をし、本当の人生を生きた女の一生を鮮やかに描き出す」とある。
幼い頃にサチ子と修平は長崎の教会で知り合う。この教会に神父として勤めたコルベ神父はポーランドへ帰国後アウシュビッツ強制収容所に入れられて、そこで亡くなる。このアウシュビッツ強制収容所で行われる出来事と、サチ子と修平の出来事を交互に織り交ぜて本は構成されている。どちらも第二次世界大戦中の出来事だ。アウシュビッツ強制収容所で行われた悲惨な出来事は読んでいて辛いものがある。アウシュビッツの博物館で目にしたことよりも文章の書き方がリアルすぎる。それくらい悲惨さが伝わる。なお、悲惨さの一番はアウシュビッツやビルケナフ強制収容所でユダヤ人が虐殺された後の大量の屍。これを同じ収容所の人により骨を砕く作業の場面は人間のすることか。しかし、この仕事をやり遂げたモノだけが遅くまで命を長らえる。いずれ殺戮される身であっても…。このことがアウシュビッツ強制収容所の鉄条網に掲げられている「働けば自由になる」の言葉だったとは…。
これらのことは父母たちが生きて来た時代に実際に世界で起きていた。戦争に加わって生き延びた人たち、決して口にはできないことがあったのだろう。この本にも書いている。アウシュビッツ・ビルケナフ強制収容所の責任者は家に帰っても決して仕事の話はしなかったという。
一方、日本でのサチ子と修平。特攻隊員となった修平。キリスト教信者として戦争へ参加する心理がサチ子あての手紙を通して書かれている。読み終えるころには涙なくしては読めない。ひさびさに読む心洗われる本だった。そして読後に自分の人生はサチ子と比べると何と薄っぺらな人生、と思う。それと同時に、なんと幸せな時代を生きているのだろう、とも思う。
本は読んでも小説というジャンルは歳を取るにつれてほとんど読まなくなった。しかし、この本のように素晴らしい本もたくさんあるはず。ともあれ、旅で聞いたこの本は読んでよかった。ポーランドで当時何が起きていたのかもわかる。
この本にある言葉から。「旅は人生であり、青い山脈は若者の憧れです」。171p
哀しいかな「旅は人生…」まではいいが後半部分の「青い山脈…」はもはや遅すぎる!?
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