司馬遼太郎の新装版『燃えよ剣』と『舟を編む』(三浦しをん 光文社、2011年)を並行して読む。どちらの本も予約する人が待っていて借りた期限までに読まねばならない。新装版の『燃えよ剣』は700頁に及ぶ分厚い本である。『舟を編む』は350頁だ。1日のノルマを決めて『舟を編む』を主に読む。昨日でこれを読み終えて今日からは『燃えよ剣』を集中して読もう。
『舟を編む』の著者、三浦しをんは読み終えるまで男性作家だと思っていた。念のため、ネットで検索すると女性作家だ。これにはちょっと驚く。自分自身が年齢を経たせいか読む本は若い作家でなく高齢の作家が多い。高齢の作家も女性より男性作家の本を多く読む。ところが今回は若い女性作家の書いた本だ。『舟を編む』のタイトルの意味が読みながらわかりだす。本や辞書をつくるには編集が欠かせない。ここから「編む」がつく!?
本を借りたままにしておくと気ぜわしさが増す。一段落したはずなのに『燃えよ剣』の借り入れ期限が迫る。これも1日に読むノルマを決めないと読めそうにない。
ともあれ今日も元気で楽しく過ごしましょう!
以下は『舟を編む』から気になる箇所を抜粋した。作家である三浦しをん、若くてもちゃらちゃらした作家でなく読み応え十分の本だった。これからの日本を代表する作家、間違いない!
★「なぜ、新しい辞書の名を『大渡海』にしようとしているかわかるか」……「辞書は、言葉の海を渡る舟だ」魂の根幹を吐露する思いで、荒木は告げた。「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」「海を渡るにふさわしい舟を編む」松本先生が静かに言った。34-45p
★どうかいい舟を作ってくれ。荒木は願いを込めて目を閉じた。多くのひとが、長く安心して乗れるような舟を。さびしさに打ちひしがれそうな旅の日々にも。心強い相棒になるような舟を。きみたちなら、きっとできる。36p
★有限の時間しか持たない人間が、広く深い言葉の海に力を合わせて漕ぎだしていく。こわいけれど、楽しい。やめたくないと思う。真理に迫るために、いつまでだってこの舟に乗りつづけていたい。184p
★言葉にまつわる不安と希望を実感するからこそ、言葉がいっぱい詰まった辞書を、まじめさんは熱心に作ろうとしているんじゃないだろうか。だとしたら、私も辞書編集部でやっていけそうな気がする。私も、不安を晴らす方法を知りたい。できることなら、まじめさんと言葉で通じあい、居心地よく会社生活を送りたい。たくさんの言葉を、可能なかぎり正確に集めることは歪みの少ない鏡を手に入れることだ。歪みが少なければ少ないほど、そこに心を映して相手に差し出しとき、気持ちや考えがはっきりと伝わる。一緒に鏡を覗きこんで、笑ったり泣いたり怒ったりできる、辞書を作るって、案外楽しくて大事な仕事なのかもしれない。233-234p
★「言葉の海は広くて深い」松本先生は楽しそうに笑った。「まだまだ修業がたりず、海女さんように真珠をとってくることができないのです」いつ終わるとも知れぬ、『大渡海』編纂作業だった。242p
★岸辺は『大渡海』編纂を通し、言葉という新しい武器を、真実の意味で手に入れようとしているところだった。255p
★早く『大渡海』を完成させたい。あと一歩のところまで漕ぎつけたからこそなのか。馬締(まじめ)のなかに強い焦燥が生まれていた。早くしないと、まにあわない。そう考え、「なににまにあわないんだ、縁起でもない』とあわてて打ち消す。277p
★「言葉は、言葉を生み出す心は、権威や権力とは全く無縁な、自由なものなのです。また、そうであらねばならない。自由な航海をするすべてのひとのために編まれた舟。『大渡海』がそういう辞書になるよう、ひきつづき気を引き締めてやっていきましょう」松本先生の口調は淡々としていたが、そこにひそむ情熱は、波のように馬締の胸に迫ってきたのだった。……松本先生はすまなそうに、窓越しに頭を下げた。走り去るタクシーを見送り、馬締は編集部へ戻った。『大渡海』編纂に対する新たな闘志と意欲が、胸の内に沸き起こっていた。283-284p
★言葉はときとして無力だ。荒木や先生の奥さんがどんなに呼びかけても、先生の命をこの世につなぎとめることはできなかった。けれど、と馬締は思う。先生のすべてが失われたわけではない。言葉があるからこそ、一番大切なものが俺たちの心なかに残った。生命活動が終わっても、肉体が灰となっても、物理的な死を超えてなお、魂は生きつづけることがあるのだと証すもの――、先生の思い出が。先生のたたずまい、先生の言動。それらを語りあい、記憶をわけあい伝えていくためには、絶対に言葉が必要だ。……死者とのつながり、まだ生まれ来ぬものたちとつながるために、ひとは言葉を生みだした。323p
★『大渡海』の完成を喜び、だれもが笑顔だ。おれたちは舟を編んだ。太古から未来へと面々とつながるひとの魂を乗せ、豊穣なる言葉の大海をゆく舟を。……めでたい晩にも、『大渡海』のこの先を考えている。さすがは荒木さんだ。松本先生の魂の伴奏者だ。辞書の編纂に終わりはない。希望を乗せ、大海原をゆく舟の航路に果てはない。324p
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