ひさしぶりに中国関連の本を読んだ。著者は日本に帰化した内モンゴルの人で静岡大学の教授である。長く中国語を習ったが最近は中国とご無沙汰気味だ。この本を読んで習っていた当時とは違う中国を知る。以下は『中国を見破る』(楊海英 PHP研究所、二〇二四年第1刷)から気になるか箇所をメモした。
ともあれ今日も元気で楽しく過ごしましょう!
★秦の始皇帝が天下統一を果たしたのは紀元前221年。周辺の匈奴は、秦王朝の人たちを「秦人」と呼んでいた。匈奴は、秦人とよく戦争をした。「秦」はアルファベットで書くと「Qin」となり、人間を指す母音「a」が最後につくと「Qina」になる。この「Qina」が西に伝わり、インド・ヨーロッパ語圏、アラビア諸国に入って「China」になった。中国の英語名が「China」であるのも、戦前の日本で「支那」と呼んだのも、「秦人」が起源とされている。(59p-60p)
★漢人の留学生が、日本に来て『中国史叙論』などを書くのも、負け惜しみの精神にスイッチが入ったからだろう。……彼らは「わが国にも長い歴史を貫くひとつの名前が必要だ。そうだ、”中国”がいい」と考えて『中国史叙論』は構想する。「王朝をまたがる数千年歴史」という概念は、梁啓超が発明したものだ。彼もまた、日本に2600年もの歴史があると知ってショックを受けた漢人のひとりだ。(76p-77p)
★ちなみに、北方から遊牧民がやってきたことで、それまで長城の南に暮らしていたプロト・チャイニーズはどう対応したかというと、一部は異民族の支配からどんどん南へ逃れ、いわゆる「客家(はっか)」となった(どこへ行っても客人扱いされるがゆえに、そうよばれるのだ!)。(94p)
★「西域」も方位名詞であるからこそ、本来の固有名詞が存在する。新疆の場合、モンゴル帝国以降は「モグリスタン」という名だった。モグリスタンとはモンゴルの人の土地であり、イスラム化したモンゴル人が暮らしていた。そのペルシャ語での呼び方がモグリスタンである。(118p)
★台湾を中華民族とするのはどだい無理な話だが、かつて中国は「56の民族がいる」と表明していた。ところが最近の中国は、「民族」という言葉を用いない状況に変わっている。その代わりとして使うようになったのが「族群」という言葉だ。(135p)
★中国にはネーションすなわち民族は中華民族しか存在せず、それ以外はすべてエスニックであるという公式見解にたどり着く。そしてそうなると、モンゴル人はチャイニーズでないにもかかわらず、中国に暮らす民族だからチャイニーズ・ネーションとなる(この矛盾を今、押し通そうとしているのだ!)。(137p)
★16世紀にモンゴルを支配した実力者にアルタン・ハーンというハーンがいる。彼はモンゴルにチベット仏教をふたたび導入したことでも知られ、チベットの高僧に「ダライ・ラマ」という称号を与えた人物である。実は「ダライ・ラマ」はチベット語ではなくモンゴル語で、「海のごとき師」を意味する言葉だ。(150p)
★典型的なのは「殺胡口」だ。胡とは胡人で、これは主に西の民族を指す。モンゴル高原から西は、すべて中国にとっては「胡」なのである。日本にも胡瓜や胡麻、胡坐と言った言葉があるが、およそ胡がつくのはイランなど中央アジアから中国へ伝わったもので、要するに中国ではうさんくさいものに対して「胡」という文字を使う。万里の長城から西へ出ていく関所のひとつが殺胡口だ。これはつまり、胡人を殺して出ていく場所、胡人を殺しに行く地との意味が込められている。それに対して乾隆帝が「胡」の字を問題視したところ、漢人官僚が「虎」に変え、殺虎口となった。乾隆帝自身も時々草原に出てトラを射倒しているので、この名前でOKを出したという流れだ。(170p)
★かつてのシルクロードは、長安からローマまでを直接つないだ道ではない。シルクロードという概念は、ドイツの地理学者・リヒトホーフェンが絹貿易の交易ルートが存在していたと仮定して名付けたもので、史実としての道筋はほぼ機能していない。すくなくとも、中国人がシルクロードを通じて欧州の文明地と直接つながっていたというのは、単なる幻想、夢想なのである。現実にさまざまな物を西へ東へ運んでいたのは、中央アジアとインド周辺の遊牧民、そしてオアシスの住民である。東と西は彼らを通じてつながってはいたものの、そのルートの担い手は決して中国人ではない。中国人は自身が建てた長城によって、外へ行くことも禁止されていたからだ(ある意味ありがたいが!)。ところが中国では、「文明の発祥地」である東の中国と、西の文明地を、間の中央ユーラシアを飛び越して結びつける道だという仮説を実現したいと目論んでいる。それが政策の形として現れたものが習近平の一路一帯であって、実態は中国主導の国家秩序を構築するためのスローガンににすぎない。(185p-186p)
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